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大きなレジ袋と、小さな思いやり。令和の古着屋さんで出逢った「人間力」の話

ガガガガッと、砂利の敷き詰められた駐車場に車を停め、
車を降りると、ドアをバタンと閉めた。
キーロックをすると、ピピッとロックする電子音が響いた。
携帯電話をデニムの後ろポケットに突っ込んで
店の入り口に向かって軽やかに歩いていった。
駐車場は店のすぐ前に用意されている。
数歩歩けば店の入り口にたどり着くほど目の前だ。
天井の高い倉庫を利用した、リーバイス501をはじめ、
ビンテージもののカーハートなど
アメリカンファッションを
多く取り揃えた古着屋さんだ。
『掘り出し物がある』
とのうわさを聞き付けたお客さんも訪れる。
先客がいるのか、平日の昼間にもかかわらず
駐車場にはすでに2台、車が停まっていた。
倉庫の前にはたくさんの古着がずらりとかかった
ハンガーラックが3つ並んでいて
お客様の来店はまだかと、待ち構えているのが見える。
目次
◆この記事は少し長くなっております。お急ぎの方は、上記の目次から気になる項目を選んでご覧ください。
脇がシームレスなビンテージと、百人百色の「黒」を求めて
ハンガーラックを横目に入店すると、
「いらっしゃいませ!」
という元気な声が飛んできた。
「おや?」と思い、その方向にチラッと目をやると
入口のすぐ左のレジに立って
せわしなくタグの仕分けを作業をしている店員さんが
手を一瞬止めて、
ニッコリとこちらに笑顔を向けながら
ペコッと会釈をしていた。
近頃では、どこか寒々としていて、
見えない壁でガードしているような従業員さんが多い中、
こういう『人間力』のある接客に触れると
心がふんわりと毛布でくるまれたような温かさを感じる。
ネットが普及して
いつでもだれとでも繋がれるようになったことと
引き換えにするかのように
「人と深く関わりたくない」「煩わしさはご免だ」と、
皮肉にも、人とつながらないドライなスタイルを
好むような風潮になってしまったのは
とても寂しい事だと感じる。
そんな中で、昔ながらの
お客様をもてなしたいという気持ちが伝わってくる
「いらっしゃいませ!」という元気な言葉は
耳に心地よく響いてくる。
その日、私が古着屋に行った理由は
お直しの依頼品であるメンズの
『黒いビンテージシャツ』に使う
素材探しのためだ。
ビンテージTシャツの身幅を大きくするため
左右の脇に布を足して幅を広げる。
ビンテージ品ということで
似た色褪せ具合のTシャツを探しに来た。
身幅を大きくしてほしいという
ご依頼だったが、Tシャツの脇には大きくできるほど布地の余裕がなく、
シームレスな製品なので
脇に布を継ぎ足して幅を大きくしなければならない。
そこで、古着屋さんに買い出しに来たというわけだ。
一口に黒と言っても、
使う染料によって、
色落ちした時の具合は百人百色。
絶妙に違ってくる。
真新しい布地を使っては
足した部分だけ
くっきりと浮き上がってしまう。
元のビンテージが持つTシャツのニュアンスを壊してしまうことのないよう
サイズ調整して生まれ変わっても
元のビンテージのヒストリーを
壊すことのないように
出来るだけ似た風合いの素材探しが必須だ。
なるべく似たものを。
と広い倉庫内の通路を順番に探し回った。
メンズのみならず、レディースTシャツの
ラックも一枚一枚丁寧に
依頼品の『黒』と見合わせながら
根気よく探した。
「帯に短したすきに長し」で、
ぴったりの色味の黒を見つけることは
難しかったが、何枚かピックアップした中から
これなら!と納得できる色褪せた黒のTシャツを選ぶことが出来た。
神対応が放つ眩しい笑顔
会計を済ませるべく、
戦利品のTシャツを携えて足早にレジへ向かった。
元気に、いらっしゃいませと迎えてくれた店員さんは
レジに行っても「ありがとうございます!」と
若々しい笑顔で相変わらず愛想が良かった。
「お支払いはPaypayですか?」と聞かれ、
Tシャツを見つけたことで舞い上がっていたのか
何も考えずに条件反射的に「はい。」と、答えてしまったが、
私の差し出した携帯画面はメルペイだった。
もう一度店員さんが「お支払いはPaypayですか?」と言ったので、
ハッとして、(しまった……)と心の中で思いつつ、
「すみません!メルペイでお願いします。」
と慌てて訂正した。
レジ作業をもたつかせてしまい
嫌な顔をされてもおかしくない場面だったが、
店員さんは
「決済方法が多いんで、わかりにくくて…。」と、
自分がさも手続きに慣れていないかのように
さらっと、嫌味なく言ってのけた。
予想に反しての笑顔での返事に
「接客のプロ」という文字が
即座に、私の頭の中でネオンのようにパッと輝いた。
コード決済を無事に終えて、
品物を袋に入れようとしたところで、
ふと店員さんの手が止まった。
手ごろなサイズの袋を切らしていたようで
「大きいサイズの袋でもいいですか?」
と、レジ袋を広げながら聞いてきた。
自分のものなら、
「そのままでかまいませんよ。」と、袋を辞退するのだが
お客様用の資材として購入したため
持ち帰るまでに何かあっては大変だ。と考え、
お願いします。と伝えた。
しかしながらTシャツ1枚のために
分厚い冬のコートでも楽に入るサイズの袋を惜しげなく
バサッと広げてくれたのを見て、
「安いものしか買っていないのに、大きな袋を使わせてしまって、なんだかすみません…。」
と付け加えずにはいられなかった。
そこでもまた、
嫌な顔一つせずに
「全然、いいですよ!」
と、若者らしい屈託のない明るい笑顔が返ってきた。
心がポカポカと温かくなるのを感じながら、
大きなレジ袋の中で、
大の字に寝そべるTシャツを受け取った。
時給は同じ、だからこそ「優しい等価交換」がwin-winになる
こういう店員さんが働いてくれるお店の経営者は
本当に恵まれているなあ。と思うと同時に
笑顔で対応しても、
嫌な顔で対応しても
働く時給は「1秒=◯円」という具合に変わらない。
そうであれば、
この店員さんのように
お客様に心地よさを提供する接客の方が
お互いにwin-winになる事ができるのではないだろうか。
「『人間力』を感じ、終始気持ちよい時間を過ごさせてもらった。」
そんな心地よさに感謝しつつ、
大きな袋を右手に下げながら
車に向かう私の足取りは
行きよりも、さらに軽やかだった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
普段は「お直し」という職人の世界で論理と合理性を大切にしていますが、
日常のふとした瞬間に触れる「人間力」に、いつも心を救われています。
また次の記事でお会いできるのを楽しみにしています。



