HOME > ファスナー救出大作戦!!【学校指定のジャンパー】ファスナー交換しないケース
ファスナー救出大作戦!!【学校指定のジャンパー】ファスナー交換しないケース
ファスナー救出大作戦!!
金曜日は他の曜日より、比較的穏やかな日が多い。 平日最後の日だから、やっておかなければいけないこともたくさんあるだろうし、 週末の予定に合わせた準備で忙しいからかもしれない。
今日の金曜日はいつもと少し違っていた。 困った様子のお客様が朝から来られた。
相談にあたって問診票にご記入いただき、内容を確認すると ジャンパーのファスナーについてのご相談だった。
「ファスナーですか?」 と尋ねると、 「子供の学校のジャンパーなんですが、(ファスナーが)動かなくなってしまったんです。昨日(飼っている)犬が噛んでしまったみたいで…」 と、ファスナーが開いた状態で、スライダーが真ん中あたりで止まってしまっている。
ファスナーを丁寧に見てみると、思いのほかきれいな状態だった。 噛んだと聞いたので務歯の破損を想定して「ファスナー交換」を告げなければいけないかな。と思っていたけれど、 幸い壊れた箇所は見当たらなかった。 ビスロンファスナーという樹脂でできた素材なので 犬が強く噛むと務歯と呼ばれるギザギザの部分が変形したり取れてしまう可能性は高い。 もしも、そういう状態になっていたら、 ファスナーを交換するしか方法はない。

想像したよりも、全体的にファスナーの状態は良かった。 「これならば、動きさえすれば何とかなるのでは?」 と考え、少しずつ動かしてみることにした。
ファスナーは色んな動作に耐えてくれる頑張り屋さんだ。 ジャンパーのフロントの左右をつなぐ役目を難なくこなす。 ボタンの点でつなぐのとは違い、長い線でつないでくれている。
しかし、そんなパワフルな見た目と違って ファスナーは実は大変繊細なパーツだ。 少しずれただけでスライダーは微動だにしない。 務歯が一つ取れただけでファスナーとして機能しなくなるし、 少し布が挟まっただけで機嫌を損ねてしまう。
どうやら今回の状態は少しずれてしまったようだった。 うまく下の差し込みまでスライダーが戻れば復活しそうである。
少し動いたことで、希望が出てきた。 心配そうな顔のお客様に 「ギザギザが少しずれているだけなので、何とかなるかもしれません。」 と伝え、作業に集中した。
スライダーが少し動いたことで、直るかもしれないと お客様に期待を持たせてしまったに違いない。 ここで「やっぱり駄目でした。」なんて口が裂けても言えなくなってしまった。
もしもファスナー交換となると、高額なお直しになってしまう。 ファスナー自体は傷んでいないので、できればこのファスナーを活かしたい。 そういう気持ちもあってスライダーの上げ下げには慎重に取り組んだ。
長い時間が経った。(ような気がするが、実際は時計を見る余裕など少しもなかった。) 格闘の末やっと差し込み付近まで下がってくれたのは良かったが 最後の一歩が遠い。 差し込みまでなかなか下がりきらない。
「これが下がり切ったら、ファスナーが使えるようになるんですけど…」 と、お客様に言っているのか自分に言い聞かせているのかわからない独り言がでてきた。 もしかすると、ファスナーがダメになっているんじゃないか、と諦めそうになったとき ふいにスライダーが差し込みに戻った。
「いけましたよ!」 と言ったものの、ぬか喜びになってはいけないと思い、慌てて 「多分、これで使えるようになるはずです!」 と、箱に蝶棒を差し込んでスライダーを上に引っ張り上げ、しっかりと動作の確認をした。

すると、さっきまで「テコでも動かないぞ!」とばかりに踏ん張っていたスライダーが こともなげにスルスルと上下に動いて見せたのである。
お客様を落胆させずに済んだのとお直しの専門家の面目を保つことができて ほっと胸をなでおろした。 と、同時にワンちゃんの面目を保つことにも一役買ったのかもしれない。
「ファスナー自体は傷んでいないと思いますので、これで様子を見てください」 とお伝えしたところ 「本当にありがとうございました!ジャンパーを買い換えないといけないかなと思っていたんです。」 と笑顔でおっしゃってくださいました。
お会計を終え、「本当にありがとうございました!」 と笑顔で車に向かうお客様を見送りながら 喜んでいただけて本当に良かったと、朝から嬉しい気持ちでいっぱいになった。
ふと、カレンダーを見ると『大安』の文字が目に入り 六曜もなかなかやってくれるな、とカレンダーに向かって笑顔になった。

編集後記:もしも、ファスナーが壊れていたら…
今回は幸いにもファスナー自体が新しく、損傷もなかったため「救出」できましたが、 もし務歯(ギザギザの部分)が欠けていたり、テープと呼ばれる布地部分が破れていたりファスナーの損傷や劣化が激しい場合は、やはり「交換」が必要になります。
また、ジャンパー本体の布地に損傷があった場合はファスナーを交換する際に 取り換え作業が出来なくなるため、併せて破れ修理も必要になります。
特に毎日ハードに履きこなす学生ズボンのファスナー交換は、実は非常に難易度が高く、 私たちプロが最も神経を使う仕事の一つでもあります。 「自分のケースは交換が必要かな?」と気になった方は、下記リンク先の記事で交換のプロセスと費用感について詳しく解説しています。
大切なお願い:ネットの「裏ワザ」を試す前に
最近、ネットやSNSで「自分で直せるファスナーの修理術」といった動画をよく見かけます。 しかし、それらを試して「どうにもならなくなってから」お持ち込みいただくケースが増えています。
実は、ファスナーの構造を知らないままペンチで潰したり、無理にシリコンスプレーをかけたりすると、 本来なら「救出」出来るはずのものが、完全に再起不能(交換必須)になってしまいます。
ファスナーは非常に繊細です。金属疲労や変形を起こしたパーツなどは、一度傷むと元には戻りません。
「自分でなんとかしよう」と格闘する前に、まずはそのままの状態でご相談ください。 それが、結果としてお気に入りの一着を不要なコストを掛けず「一番確実に」守る近道になります。

