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オーダースラックスの寿命を延ばす「レッドラインの法則」と破れ修理の極意
お気に入りの一着ほど、早く傷んでしまうという罠
ご自身の体のサイズにぴったりのオーダースーツ。 一度着用してしまうと、既製品(つるし)では物足りなくなりますよね。
お気に入りの物ほど、1週間の内に、ついついヘビロテしてしまうのではないでしょうか。
オーダースーツは美しいシルエットを作るため、上質なウール100%のしなやかな生地で作られています。 ウール生地は『ふわふわの羊の毛』から作られた繊維で、私たちが想像する以上に繊細なものです。
生地の寿命を決定づける「レッドラインの法則」
一般的にスラックスの耐用年数は、適切にローテーションして2〜3年と言われています(クリーニング賠償基準等)。 ですが、下記のローテーションを見ていただくとわかるように、ある『レッドライン』を越えた瞬間に、生地の寿命は一気に加速します。 それが、週3回着用という極限状態です。
◆週1回着用の場合: 中6日の休息があり、湿気が抜け、繊維の弾力が戻ります。 ◆週3回の場合: 中1〜2日しか休ませられません。 湿気が抜け切る前に再び摩擦と荷重がかかるため、繊維の破断(=破れ)が指数関数的に早まります。
「オーダーメイド=丈夫」という誤解
単純計算で、週1回着用の耐用年数を3年とした場合、週3回では3倍の頻度となり、わずか1年で限界値に達します。 しかし実際には、休息不足によるダメージの蓄積が加わるため、その1年すら持たないケースも珍しくありません。 ※最低限、中4日は休息が望ましいです。
JIS規格の摩耗試験に照らし合わせても、週3回の着用は、わずか1年で生地を限界(レッドライン)へと追い込みます。 オーダーメイド=丈夫ということではありません。 「オーダーメイドなのに、1年でダメになった!粗悪品だ!」 ということではなく、生地が摩耗に耐え切れなくなったということなのです。

なぜ「股部分」から破れるのか
スラックスの破れの多くは股部分ですが、週3回ペースだと「連続した摩擦」によって生地が薄くなるスピードが3倍以上になります。 1年(約52週)で約150回以上履くことになり、これは週1回ペースの人の3年分に相当します。
これだけの負担が生地にかかり、回復期間がないとしたら、 気づいた時には股ズレで生地が透け、いつ破れてもおかしくない状態に……。
「大切に仕立てたお気に入りの一着を、わずか1年で使い捨てにしないために。」 今回は、お直し職人の視点から、破れの原因となる『レッドライン』の正体と、 お気に入りのズボンを10年持たせるための守り方についてお話したいと思います。

目で見えるレッドラインの兆候
「手遅れになる前に。ご自身でできる『レッドライン』のセルフチェック」
- 光に透かしてみる(向こう側が透けて見えたら破れる一歩手前です)
- 触診で確認する(ザラついていたり、生地の『厚み』がなくなっている)
- 内側の生地がほつれている箇所がある(股のあたり)
- 仕立てた時より下半身の肉付きがよくなった。(太った)
まだ間に合います!職人が施す『寿命を延ばすための補修技術』
セルフチェックで兆候が見つかったからといって、その一着をまだ諦める必要はありません。
現状で穴が開いていない『生地が薄くなった状態』であれば、裏側から補強布をあて、 生地への直接の摩耗を軽減させる処置が可能です。
『股シック(ハートシック)』の活用
また、股ズレ防止専用のアイテム『股シック(ハートシック)』を活用するのも有効な手段です。 股シックはオーダーメイド作成時に取り付けてもらえることが多いので、次回新調される際は、ぜひお店の方に相談してみてください。 なお、当店では定番サイズはもちろん、お客様の体型やスラックスの構造に合わせた『オーダーメイド・股シック』の作成も承っております。お気軽にご相談ください。
オーダー時よりも太ってしまった
もしも『太った』ことが原因であれば、破れを直すだけでは不十分です。 ウエストや渡り幅を調整して生地への負荷そのものを減らすアプローチも、大切な「修理」のひとつです。 原因が解決されないまま補修だけを行っても、生地への負担は続き、再び同じ場所もしくは新たに別の場所まで破れてしまう……という結果につながってしまいます。
筋肉質な方、スポーツ経験のある方は要注意
筋肉質でがっちりした体格の方ほど、オーダースーツをお召しになられます。
どういうことかというと、例えばジャケットの場合、肩幅に合わせると、身幅が余る袖丈が長い。 また、スラックスで考えると渡り幅(太もも)に合わせると腰回りが大きすぎるなど既製品ではカバーしきれないのです。
実は「太った」わけではなくとも、太ももの筋肉がしっかりされている方は 、歩行時に布の摩擦が大きくなりがちなため、通常よりも早くレッドラインに達する傾向があります。 そのような方には、あらかじめ生地の代わりに摩擦を受け止めてくれる『股シック』の取り付けが、物理的な防壁として非常に有効です。
ただ単に穴を塞ぐのではなく、『なぜそこが破れたのか』の原因を究明し、根本的な解決策を施す。 これが、オーダースラックスを真に長持ちさせる秘訣だと私は考えます。

【補足コラム:10年履き続けるための「賢いローテーション術」】
「5着ローテーション」と「ツーパンツ」の合わせ技
お気に入りのスラックスをレッドラインから守り、10年現役で履き続けるための理想は「5着ローテーション」です。
「1日履いたら、4日休ませる」 この中4日の休息が、ウール繊維に染み込んだ湿気を完全に飛ばし、押し潰された弾力を蘇らせます。しかし、一度に5着のオーダースーツを揃えるのは、コスト面でも勇気がいることかもしれません。
そこで、私がプロの視点でおすすめしたいのが、オーダー時の「ツーパンツ(スペアパンツ)」または「スリーパンツ」指定です。
なぜツーパンツが「賢い」のか? ジャケットに比べ、スラックスは歩行や着席によるダメージを常に受けています。ジャケット1枚に対してスラックスを2本ないし3本作り、交互に履き替えることで、1着のスーツとしての寿命を劇的に延ばすことができます。
- コストを抑えて着数を稼ぐ: スーツを新調するより、スペアパンツを作る方がはるかに経済的です。
- ジャケットの美しさを無駄にしない: 「パンツがダメになってジャケットだけ残った」という悲劇を防げます。
- ローテーションの核にする: 「ツーパンツのスーツ2着(計4本)」+「ジャケパン用スラックス1本」で、立派な5着体制が完成します。
「5着も揃えるのは大変だ」と思われるかもしれませんが、このようにツーパンツを賢く活用することで、コストを抑えつつ『自分の体に馴染んだ最高の相棒』と長く共に過ごす環境は作れます。
大切なのは「毎日同じものを履かない」という、洋服に対してのほんの少しの気遣いなのです。
事例紹介:お客様とのエピソード
ここまでで、なぜ破れるのかという原因と予防策について詳しく説明してきました。 しかし、どんなに大切に扱っていても破れてしまう時は来るものです。お気に入りの一着ならなおさらです。
他店も経験されたお客様が、最後にリフォーム繕を選んでくださった理由
先日、破れ修理(股部分)についてお困りのお客様から「ミシン刺し」での修理の見積依頼のご相談をいただきました。 メールの返信で「ミシン刺しは布地の表側にミシン目が残るため、かなり目立ちます」と正直にお伝えしたところ、 「承知していますので大丈夫です。一度見てもらえますか?」と、 心強いお返事をいただきました。
ミシン刺しを実際に見たことがない場合、かけつぎ・かけはぎ(高級修理)のような仕上がりをイメージしてご相談にお越しのお客様も少なくありません。 お客様ご自身が、仕上がりの想像が付かないままお引き受けすると、実物とイメージの乖離が大きいと「思っていたのと違う」という結果につながりかねません。 特にご本人様以外のご家族の方がお持ちになられたときは、ミシン刺しの見本を見ていただきながら殊更丁寧に説明させていただいています。
ご予約当日は、あて布用の共布もご持参いただき、入念な打ち合わせを行いました。 その際に「ミシン刺しは目立つことは存じています。その上で、できるだけ丁寧に仕上げてくれるお店を探していてネットで当店を見つけました」 とおっしゃって下さいました。 お客様は以前にも他店でミシン刺しをご依頼した経験がありますが、今回はわざわざ当店に足を運んでくださいました。

職人のこだわり
広範囲の破れは、単にミシンをかけるだけでは仕上がりがみすぼらしくなってしまいます。 まずは破れた箇所の残っている横糸をアイロンと目打ちで、できるだけまっすぐ整えます。 持参いただいた共布を慎重に裏から当てて、生地の織り目一本一本に馴染ませるように配置します。 今回、布地はチェック柄でしたので、黒とグレーの2色の糸を使って補修しました。

仕上がり後のひとこと
お渡しの際、仕上がりをじっくり確認されたお客様から、 「ここまで丁寧に仕上げてもらえるなんて。本当に依頼して良かったです」 と大変喜んでいただきました。
納品の時はいつも「仕上がりを気に入っていただけるだろうか?」と、大変緊張する瞬間です。そして、お客様の笑顔を見ることが出来たとき安堵と共に感謝の気持ちでいっぱいになります。


「自分のスラックスも、一度診断してほしい」と思われた方へ
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